神秘の幻覚植物体験記

 

                             

 

          

はじめに

 

 含有する化学成分によって、摂取した人間の知覚に様々な変化をもたらすという幻覚植物。世界ではこれまで数多くの種類の幻覚植物が確認されているが、そのメッカと言えるのが中南米だろう。

 

 日本でもかつて流行し、幻覚植物の代名詞的な存在となった「マジックマッシュルーム」。 LSDの100倍もの強さがあるとも言われる「アヤワスカ」。 メスカリンという幻覚成分を含む幻覚サボテン「サンペドロ」「ペヨーテ」。 メキシコやペルーといった国々では、自生するそれら幻覚植物を使ったシャーマンによる儀式がいまでも行われている。私がそのことを知ったのは、今から 年ほど前にさかのぼる。

 

 アメリカの作家、ウィリアム・バロウズとビートニクの詩人、アレン・ギンズバーグの共著『麻薬書簡』、アメリカの人類学者、カルロス・カスタネダの『呪術師と私―ドン・ファンの教え』、そ してオルダス・ハスクレー『知覚の扉』などを読んでいるうちに、この世には多種多様な幻覚植物があり、その作用によって訪れることができる現実とは違う「ビジョン」と呼ばれる世界があるこ とを知った。以来、私はいつの日か中南米を旅し、それら幻覚植物を体験し、「ビジョン」を観た いと考えるようになったのだ。

 

 転機になったのは、大学の卒業だった。サンフランシスコの美術大学で写真を学んでいた私は、卒業後、レンタカーを借りてアメリカ横断旅行にでかけた。西海岸から東海岸へ、東海岸から再び西海岸へ。1ヶ月にもわたる横断旅行は、私に旅の喜びや楽しみを教えてくれた。そして、日本に一時期帰国中、私はかねてからの夢をかなえるために、中南米旅行を決意する。

 

 山奥の村やジャングル、山岳地帯など、シャーマニズムの伝統がいまなお色濃く残る地域を訪ね 歩く。そして各地で幻覚植物を使った儀式を受けて、内なるビジョンを探していく。いうなれば、 中南米サイケデリック紀行である。旅は2016年月に始まり、途中、一時帰国を挟んで1年近くに及んだ。

 

 初めに向かったのはメキシコのオアハカ州の山奥にある「ウアウトラ」というシャーマンの住む村で、私は 人のシャーマンに出会い、マジックマッシュルームの儀式を受けた。アマゾンのジャングルでは人生観を変えるほど強烈な「ビジョン」が見れるというアヤワスカを飲んできた。標高3000メートルを超える山岳地帯では、アンデス山脈に住むシャーマンの儀式を受けてきた。この旅の最終目的地となったメキシコのレアル・デ・カトルセ近郊の荒地では、幻覚サボテンを摂取したあとに究極の幻視体験をすることになった。

 

 本書は、その旅の中で私が垣間見た「ビジョン」の体験記である。「ビジョン」がどういうものであるか。その本質を言葉で表すのは難しい。単なる幻聴や幻覚とはまったく種類が違う。あえて説明すれば、本来そこにないはずの、いるべきではないものが実体に限りなく近い実感を伴って現れる――そういう世界だと言えばいいだろうか。

 

 「ビジョン」は人それぞれ、見え方や捉え方が違う。が、少しでも参考になればと思い、私が体験した世界は可能な限り描写したつもりだ。現実世界と平行線上にあるもう一つの異質な世界「ビジョン」。 本書が未知なる世界への指標になれば幸いである。

 

2019年7月31日。彩図社から刊行されました